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2025.12.14若女将のぽそぽそ話し…

朝のひとてま

朝のひとてま

おはようございます。古都の宿 むさし野の若女将でございます。
私の一日は、まだ外が薄青く、奈良の山々が静けさの中に溶け込むような時間から始まります。お客様がお目覚めになる前に、宿の空気を整えるための小さな「ひとてま」を積み重ねることが、若女将としての朝の大切な仕事です。

館内の廊下に足を踏み入れると、まず感じるのはむさし野ならではの“お香の気配”。
強すぎず、ふとした時にふわりと寄り添うように香るこの空気は、むさし野が大切にしてきたおもてなしのひとつ。
私は朝の見回りで、焚かれているお香の香りがその日の空気と調和しているかを確かめます。

香りが空気に溶けていく“余韻”を整える感覚に近いかもしれません。お香の残り香は、ただ香らせるのではなく「空間の息づかいを整える」もの。これは長年お香と向き合ってきた女将(私の母)が口癖のように教えてくれたことです。

そしてもう一つ、女将から教わる朝の大切な仕事があります。
それは「花の視線を整えること」。
むさし野の季節の花を生けているのは、女将です。花を前にすると母の表情は職人そのもの。生けた枝の角度や花の向きに、母の長い経験と季節への感性が宿っているのを感じます。

私はまだまだその域には届きませんが、毎朝の見回りで、女将がどんな思いで花を置いているのかを読み取る練習をしています。
「この枝は、玄関に入った瞬間のお客様の目線を受け止めるように置いたのよ」
「この花は、廊下を歩く足音と季節の気配が混じった瞬間に見えるのが一番美しいの」
そんな言葉を聞いて育った私は、母の花の前に立つと自然と背筋が伸びます。

庭に出ると、もう一つの“奈良らしい朝の準備”が始まっています。
鹿たちが、落ち葉の中からどんぐりを探すために鼻先を忙しなく動かしながら、ゆっくりと庭を散歩しています。朝の空気の中でカサ…カサ…と落ち葉を踏みしめる音は、むさし野にしかない自然のBGM。
その中に、小豆の姿を見つけることも増えてきました。小さな身体で一生懸命どんぐりを見つけようとする姿に、私はつい「小豆~!今日も沢山食べてね~!」と声をかけてしまいます。

館内に戻ると、玄関の隅々や、ロビーの季節のしつらえなどをひとつひとつ確認します。こうした小さな“整える動作”を繰り返すうちに、むさし野という宿が、ゆっくりと目を覚ましていくように感じるのです。

やがて窓の外が明るくなり、お客様のお目覚めの気配が館内に満ちていきます。
「今日も良い一日になりますように」
そんな気持ちが自然と胸に広がる瞬間です。

そうそう、昨日Instagramストーリーに“朝の鹿レポート”を載せましたら、「小豆、今朝も元気?」とコメントが届き、思わず笑みがこぼれました。

 

むさし野の朝は、この静かで繊細な“ひとてま”から始まります。
こうして少しずつ、皆様にむさし野の日常をお届けできれば嬉しく思います。